Hawaii 1

 空港のラウンジで搭乗を待っているあいだ調子にのって何杯もワインを飲み、おいしすぎるカレーをおかわりして食べてしまった結果、ハネムーンな私たちはせっかくのペアルックのシャツの前ボタンをだらしなく開けそのままラウンジのソファで意識を失い、眠った。少々青ざめた顔で、遅れてきた最終のホノルル便にのったら、あっという間に朝のハワイへ舞い降りたのだった。

 滞在したホテルの部屋は38階で、バルコニーを見下ろすとものすごいパースのついたホテルの外装とカラカウア通り、をワイキキビーチへと横断する人びと、と、水面スッケスケの真っ青な海!が一面広がっており、リゾート慣れしていない私は「ち、地球はしっかり水を張った玉であるんだな!」みたいな妙な感慨とめまいに襲われて、ビクビクしながら美しい景色を望んだ。関係ないけれど「25階の非常口で風に吹かれて爪を切る」っていうアンニュイな歌い出しをなぜか思い出してしまって、滞在中、何度かここで爪切ったら気持ちいいだろうなと頭をよぎったけれど、爪切りなかった。(代わりにアメニティの綿棒を使って耳かきはしたけれど、やっぱり明菜感は出なかった)
そして、なにより風。空港へ降りたったときからなんとも心地よい風が吹いていたけれど、部屋のバルコニーの窓を開け放っているときの風といったら「この地球上にあるすべての柔らかいものを独自の製法で抽出して編んでいます」と記されたタグがついていても「なるほどですねー」と納得してしまう品質なのです奥様。ああ、なんて、ハワイなんだろう……とこの時点ですでにワントーンくらい性格が良くなったような気がしたりして。ふと、思い出そうとしてみた数時間前まで着々と続いていたはずの生活(制服をきてばたばた車を運転しいくつかの信号をこえて砂利道に駐車したくさんの段ボールをあけたりエクセルを入力したりミスをしてお客様や上司に頭を下げたり昼休みに急いで戻って犬におやつを与え洗濯物をとりこんだり、慌ててATMへいったり、ネットで注文していた物が届いたり、夜遅くなってからスーパーへ行ったり、深夜番組を見てけらけら笑ったり)は、前世のことのようにはるか昔へ遠のいてしまっていた。ハワイへ着いても備えなくセーターを着たままでビーチを歩いて浮きまくっていた私はここで(あるいはすでに)心に決めたのだった、私よ…リゾート仕様の私になりませんかと。

gohan.s